私好みの新刊 2022年7月
『山の上に貝がらがあるのはなぜ ?』 アレックス・ノゲス/文 岩崎書店
「ハイキングにいこうか。」で始まる化石の本である。子どもにも親しまれるデ
フォルメされた絵が続く。最初は野原に出るがだんだんと森の中へ、そしてやが
て山にたどり着く。目の前の〈地層〉が大きく描かれている。石あり、砂あり、
泥ありの〈地層〉である。ここで登場人物が石を拾っているとカキの殻が見つかる。
海の生き物カキの殻である。「カキがどうやってこんな山の上まできたのかしら?」
と問い、カキ〈化石〉の話が始まる。地球には何億年と堆積されてきた〈地層〉
がある。放射性物質による年代測定から、このカキの〈地層〉は8500万年前と書
かれている。しかも〈地層〉の色から貝化石の時代もほとんど海中にいたことも
わかる。その後〈地層〉は山になった。音階になぞらえて〈地層〉の説明をして
いる所がおもしろい。今度は、「海はどうやって山をのぼったのかな?」と問いか
けられ、「海は動いているの。」と答えられている。(結果として「海は動いている」
とも言えそうだが本当は陸地が動いているが正しいのでは。ウェゲナーの大陸移動
説しかり。) ここで、長い間のいろいろな地殻変動の説明がある。しかし、それ
だけではどうして3000メートルの山になったのかの説明にはならにない。そこで登
場するのがプレートの動きである。「そうやってプレートが押しあった結果、古代
の海の底はゆっくりゆっくりもりあがっていって・・。」「とうとう山のてっぺん
になったの!」と説明される。この程度の説明で、地球のダイナミックさが子どもに
伝わるかどうか。しかし、山の上の貝がらは神の造形物ではないことはわかると思う。
最後に地質学用語の「用語集」がついている。ルビはつけられているが言葉はかな
り専門的である。 2021年12月 1,600円
『この世界からサイがいなくなってしまう』 味田村太郎/文 学研プラス
「サイがいなくなってしまう」とは強烈なメッセージである。今までにも、ゾウな
どが密猟の対象になっていることは知られている。サイもか、と本をめくる。
サイが地球上に現れたのは約5000万年前と言う。その後サイは多様化し、今の日本
各地にも生息していたと言われている。こうして多様化したサイだが、今は次々と姿
を消した。現在生きているのは〈最後の生き残り〉とも言われているらしい。中でも
アフリカのサバンナにいるシロサイが絶滅寸前と言う。シロサイには立派な角が頭上に
2本ある。それが密猟の対象になっている。サイの角は大きな財源になるらしい。
一方アフリカにはサイの保護活動をしている団体がある。 著者は民間の動物保護区
に向かって取材中、死んでいるサイに遭遇した。メスのサイだった。頭にあった角が
2本とももぎ取られていた。さらにその周辺にはもう一頭が・・。子どものサイだった。
サイは、母親が殺されるとその近くを子どもが逃げ惑うそうだ。その子どもサイを保護
する〈孤児院〉がアフリカにはあるという。レンジャーたちは夜も密猟者がいないか見
回る。
続いて、著者はアフリカにある「クルーガー国立公園」に向かう。レンジャーは武器
を持って監視に向かうのでまるで戦場への出撃なのだ。ここまでしていてもシロサイは
次々と殺されていく。絶滅寸前まで来ているらしい。そこで、活躍しているのが日本人
科学者だと言う。最先端の技術でシロサイの赤ちゃんを誕生させようとしている。その
手法は、ips細胞を使ってシロサイの卵を復活させ絶滅の危機を乗り越えようとしている。
まだ、道半ばだがうまくいくだろうか。
2021年6月 1,540円
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